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日経の記事になったのね

消えてなくなるのがいやなので、こちらにも文章をコピーしておく。


消え去ったミニバンの秘密

2001年9月11日、私はフランクフルトモーターショーの会場にいました。初秋のドイツは素晴らしい天気で、会場内はもとより、会場外でも多くの人々が展示車を取り囲んでいました。その中に、発表されて間もないルノーの意欲作「アヴァンタイム」があり、来場者の視線を一身に集めていました。

 私も思わずその車に目が釘づけになりました。ボディーの派手なツートンカラー、そしてアルミ風の光沢を持った太いリアピラーがひときわ目を引きます。一方、ベルトラインとフロントグリルを連続させた造形はいたってシンプルで、好感が持てるものです。ルノーのデザインディレクター、パトリック・ルケマン氏ならではのセンスが感じられました。

 アヴァンタイムは、ベース車となった「ルノー エスパス」と同様、広いキャビンを売りにしたミニバンスタイルです。それなのに、なんと2ドア。ワーォ…、初めて実車を見た私は思わず声を上げてしまいました。

なぜ2ドアにしたのか

 じっくりと観察し終えると、かすかな心配が頭をもたげてきました。2ドアの車はカスタマーが限られることを痛いほど体験して学んでいたからです。なぜ2ドアにしたのかを関係者に聞こうと思い、周りを見わたしていると、偶然パトリック・ルケマン氏が通りかかりました。

 早速、私はアヴァンタイムのデザインについて聞こうとしました。ところがルケマンさんは開口一番、「カワオカさん、ニューヨークが大変なことになっているらしい。早くテレビを見に行こう」と言うのです。ニューヨークの高層ビルで火災が起きていて、それも単なる火災ではないらしい…、とまた聞きの状況をかいつまんで説明してくれました。

 モーターショーの会場にはテレビ中継車が何台も来ていました。その中のCNNのテレビモニターの前には、人だかりができていました。モニターに映っていたのは、黒煙を上げて燃える超高層ビルです。そんなわけでアヴァンタイムの2ドアの話はどこかへ行ってしまい、私とルケマンさんはCNNの中継を無言のまま見ていました。結局、私はアヴァンタイムが2ドアになった理由をルケマンさんに聞くことができませんでした。

よみがえった1930年代の空力デザイン

 それから2年経った2003年の9月の初め頃です。アヴァンタイムが2ドアになった理由のヒントになる車を目にしました。その車は、フランスで開催されたクラシックカーイベント「ルイ・ヴィトン・クラシック」に登場しました。米国人エンジニアのウィリアム・スタウトがデザインした世界初のミニバン「スカラブ」(1936年製)。左右非対称の位置にドアがある、極めて独創的な2ドア車です。この車がフランスにあるとは思っていなかったので、私は驚きました。

 スカラブを見て、私は「ルケマンさんはこの車をヒントにしたのに違いない」と思いました。ルケマンさんはルノーに勤める前は、ドイツ・フォードでディレクターの要職にありました。当時のドイツ・フォードは、空力デザインの分野で世界の自動車業界のトレンドリーダーでした。空力デザインを重要なマーケット戦略として位置づけており、空力特性に優れた「フォード スコーピオ」などの傑作を生み出しました。

 とりわけ研究に熱が入っていたのが、1930年代に流行していた流線形のデザインです。当然、スカラブも研究対象になっていたはずです。欧州でミニバンのキーワードと言えば「バカンス」。ルケマンさんはバカンスのお供をする未来のミニバンをデザインするに当たり、1936年製のスカラブの持つアート感覚を思い浮かべたことは想像に難くありません。優れたデザインは時空を超えてデザイナーのイマジネーションをかきたてるのです。

 存在感抜群のアヴァンタイムでしたが、市場におけるミニバンのイメージは、多人数が乗る多目的の車です。それに合致したドア数が求められており、2ドアで幅広いカスタマーを得るのはやはり難しいのです。残念ながらカタログモデルから消えていきました。




著者
河岡 徳彦(かわおか・のりひこ)

静岡文化芸術大学 デザイン学部生産造形学科 教授。1966年多摩美術大学卒業。東洋工業、アダムオペルAG(GM)を経て、マツダ・デザイン本部長、スズキ・商品企画統括部デザイン部長を歴任。海外で活躍する日本人カーデザイナーの先駆者。マツダ「デミオ」、「フェスティバ」、スズキ「スウィフト」などのヒット車を世に送り出した。著書に「クルマの時代とかたち」がある。
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  • Author:JIJI左右衛門
  • Life with Avantime』の管理人です。
    アヴァンタイムだけでなくClioラニョッティにまで手を出してしまいました。
    これからどうなっていくのでしょう・・・
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